自閉スペクトラム症(ASD)とは?

2023年5月8日

自閉スペクトラム症(ASD)とは?

 

 

これまで、自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などのいろいろな名称で呼ばれていましたが、2013年のアメリカ精神医学会(APA)の診断基準DSM-5の発表以降、自閉スペクトラム症ASD:Autism Spectrum Disorder)としてまとめて表現するようになりました。

 

ASDは、人とのコミュニケーションにおいて、言葉や視線、表情や身振りなどによるやりとりが苦手だったり、自分の気持ちを伝えることや、相手の気持ちを読み取ることが難しかったりするといった特性があります。

また、特定のことに強いこだわりを持っていたり、感覚の過敏さ(または鈍感さ)を持ち合わせていたりする場合もあります。

近年では、早ければ1歳半の乳幼児健康診査や、3歳児健診でその可能性を指摘されることがあります。

しかし、知的能力障害(知的障害)を伴わず、言葉の発達が良好である場合には、小学校入学後や、成人になってから初めて診断を受けることもあります。

ASDには、対人関係やこだわりの特性がきわめて強い状態だけでなく、これらの特性が少しでもあることによって生活に支障を来し、福祉的・医療的サポートが必要な状態まで幅広く含まれます。

最近の調査では、子どものおよそ20~50人に1人がASDと診断されるともいわれています。

男性に多くみられ、女性の約2~4倍という報告があります。

 


ASDの原因

ASDの原因はまだ特定されていませんが、多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる、生まれつきの脳の機能障害が原因と考えられています。

胎内環境や周産期のトラブルなども、関係している可能性があります。

親の育て方が原因ではありません。

 


ASDのお子さまの特徴の一例

●視線が合わないか、合っても共感的でない
●表情が乏しい、または不自然
●名前を呼んでも振り向かない
●人見知りしない、親の後追いをしない
●ひとりごとが多い、人の言ったことをオウム返しする
●親が「見てごらん」と指さしてもなかなかそちらを見ない
●抱っこや触られるのを嫌がる
●一人遊びが多い、ごっこ遊びを好まない
●こだわりが強い
●食べ物の好き嫌いが強い、偏食がある
●欲しいものを「あれとって」と言葉や身振りで伝えずに、親の手をつかんで連れて行って示す

診断は問診やスクリーニングなどから

ASDの診断は、DSM-5というアメリカ精神医学会による「精神疾患の診断・統計マニュアル」に記載されている基準などをもとにした問診によってなされます。

心理検査やスクリーニングテストを併用することもあります。

 

〈DSM-5での診断基準〉

 

複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥がある

行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上ある(情動的、反復的な身体の運動や会話、固執やこだわり、極めて限定され執着する興味、感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さなど)

発達早期から①と②の症状が存在している

発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されている

これらの障害が、知的能力障害(知的障害)や全般性発達遅延ではうまく説明されない

 

これらの条件が満たされたとき、ASDと診断されます。

 


特性の現れ方は人それぞれ

ASDという同一の診断であっても、話し言葉がない場合から、むしろとても流ちょうに話すけれども会話を双方向的に展開するのが苦手だという場合まで含まれます。
目と目が合わない、目を合わせると背けてしまうという人もいれば、日常での社会的やりとりには困難がないけれども相手の考えていることを表情や言葉のニュアンスから読み取ることができない人もいます。

また、体を前後に揺すったり、くるくると回ったり、光の前で手をひらひらさせるという人もいれば、昆虫や機械系には強くて、一目置かれているような博士タイプの人もいます。

つまり、ASDに共通する特性はあっても、その特性の程度や困難の現れ方は、人それぞれ異なります。

 


ASDの治療・支援

治療の基本は、一人ひとりの特性に合わせた教育的方法を用いた支援で、これを「療育(治療教育)」といいます。

療育を受けることで、生活の支障を少なくすることができます。

ただし、興奮、パニック、自傷行為、攻撃性、不眠などがある場合には、対症療法的に薬物が処方されることがあります。

ASDのお子さまは、特性を周囲に理解してもらいにくく、いじめ被害に遭う、一生懸命努力しても失敗を繰り返す、などのストレスがつのりやすいため、身体症状(頭痛、腹痛、食欲不振、チックなど)、精神症状(不安、うつ、緊張、興奮しやすさなど)、不登校やひきこもり、暴言・暴力、自傷行為などの「二次的な問題(二次障害)」を引き起こしやすいといわれています。

そうなる前に家族や周囲がその子の特性を正しく理解し、本人の「生きづらさ」を軽減させて二次的な問題を最小限にとどめることが、ASDへの対応の基本となります。

 

【幼児期・学齢期の支援】

ASDの子育てには、さまざまな工夫が必要です。

子育ての支援は、医療機関だけではなく、地域における子育て支援機関や療育機関などでも行われます。

その子どもが家庭や保育園・幼稚園・学校などで安心して活動でき、さまざまなスキル(コミュニケーション、対人スキル、日常生活スキルなど)を学べるように、その子自身だけではなく、むしろその子の養育に関わる保護者や学校などでの支援を整えていくことが大切です。

 

【思春期以降の支援】

発達段階とともに、その子が直面する発達課題も異なってきますし、思春期以降では、進路や人間関係、就労や家庭生活、余暇活動、自己実現などもテーマになってきます。

当事者がその人らしく歩めるような支援を提供できるように準備し、相談に応じられるインフラとして機能することが医療や支援機関の役割といえます。

 

【薬物療法】

薬物療法については、ASDに認められることの多いかんしゃくなどに抗精神病薬などが使用されることがあります。

また、併存する精神疾患には、その病状に応じた薬物療法が実施されます。

 


ASDのお子さまは、こんなことに困っています

 

●グループでの作業・活動が苦手

ASDのお子さまには、幼稚園・保育園や学校などの集団生活になじめない子が少なくありません。
授業や行事で一斉に同じ活動をしたり、クラスの中で他のお子さんと適切な距離感を取りながら付き合うのが苦手なことが多いです

大人になっても職場や町内会・親戚付き合いなど様々な場面で集団活動に参加する必要があります。しかも子どもの頃よりも与えられた役割を果たすことを求められるようになり、「パス」したくてもできない事が多くなります。

グループ活動場面で言えば、ASD のお子さまは一人で黙々と作業をするのは得意な傾向にありますが、チームで業務を行うのが苦手な子が多くいます。
よく「空気が読めない」と表現される状態です。

グループ内で孤立してしまったり、周囲と足並みを揃えずに自分が良いと思ったことを独断で行い、他のメンバーを混乱させてしまうことがあります。
言葉や図で説明されない限り、本人にはチームがどんな目標のためにどうやって動いているかを理解したり、それを踏まえて自分はどう動けばよいかを理解するのが難しいのです。
結果として周囲からは非協力的な態度だと受け取られてしまいやすくなります。

 

●やり取りがうまくかみ合わない

ASDのお子さまの中には、言葉の発達に遅れがあると指摘を受けていた人も多くいます。
その後成長して日常生活の読み書きや会話は十分できるようになった人でも、独特の言葉の使い方をすることがあります。
少し表現が不自然な程度であればやり取りしていても大きな問題にはなりません。
しかし、言われたことを独自に解釈して理解のズレが生じたり、わかりにくい表現をして相手にうまく伝わらないことも少なくありません

教師からの指示を誤って理解したり、報告や相談をするときに話が分かりづらく支障が出ることがあります。
また学校以外の、状況が色々と変化する場面に遭遇した時(習い事や校外学習、友人とのお出かけなど)には、その場で言われたことを理解し適切に返答するといった動的なコミュニケーションが求められるようになります。
そのようなスピード感があり、きちんと具体的に説明しないやり取りだと理解が追いつかなかったり言いたいことをぱっとまとめて伝えられないという人も少なくありません。
学校では急な変化が少なく自分のペースで落ち着いてやり取りできる静的なコミュニケーションが多いため、学校生活では問題が目立たない人もいます。毎日やることが決まっているからです。
しかしそのようなお子さまでも、学校以外の場面では困り事に遭遇することも少なくありません。

言葉の使い方以外にも、会話をする中で相手がどんな気持ちでいるか表情などの様子から読み取ったり、読み取った相手の気持ちを踏まえて伝え方を修正することが苦手です
そのため例えば怒っている相手に火に油を注ぐようなことを気にせず伝えてしまうといったことが起こりがちです。
他にも会話を円滑に進めるために笑顔で応えたり共感の気持ちを態度で示すことがうまくできず、会話をしていても何となくぎくしゃくした雰囲気になってしまうこともよくあります。

 

●自己流で物事を進めたがる

ASDのお子さまは、特定の物事を手順通りに行うことに強くこだわることがあります
例えばいつもの道順でなく別の道から行こうとすると拒否したりします。
自分の知らない別の方法ではどんな結果になるか想像ができず、恐れや抵抗を強く感じてしまうためです。
子どもであればパニックになるほど混乱することもありますが、成長するにつれてそのような場面は減っていきます。
しかし大人になってもあらかじめ説明してもらえないと、自分が納得した方法で物事を進められない時には困惑してしまうことがあります。

グループ活動であれば、ルールや指示の通りに作業をするよう言われていても、自分が気になってしまうと作業を先に進めることができなかったりします
中には指示されていないことも気になってしまい、違う方向に作業してしまう場合もあります
このため作業の効率が落ちたり作業が完了できなくなることもあり、グループ内での評価が下がってしまうことも残念ながら少なくありません。


 

 

 

参考:

・こころの健康情報局 すまいるナビゲーター  「子どもの自閉スペクトラム症」

・NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター 「自閉スペクトラム症(ASD)」

・e-ヘルスネット  「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」

・Kaien 「大人のASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)」

 

 

 

 

 

★次回は、注意欠如・多動症(ADHD)について書きたいと思います。