注意欠如・多動症(ADHD)とは?

2023年6月2日

注意欠如・多動症(ADHD)とは?

 

 

注意欠如・多動症ADHD:Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)は、発達水準からみて不相応に注意を持続させることが困難であったり、順序立てて行動することが苦手であったり、落ち着きがない、待てない、行動の抑制が困難であるなどといった特徴が持続的に認められ、そのために日常生活に困難が起こっている状態です。

12歳以前からこれらの行動特徴があり、学校、家庭、職場などの複数の場面で困難がみられる場合に診断されます。

ADHDは、不注意(集中力がない)・多動性(じっとしていられない)・衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられ、これらのADHDの特徴症状により仕事や学業、日常のコミュニケーションに支障をきたすことがあります。

※以前は「注意欠陥・多動性障害」という診断名でしたが、2013年に刊行された「DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)」で、「注意欠如・多動症」に変更されました。

 


ADHDの原因

近年の研究によると、ADHDは行動等をコントロールしている神経系に原因がある脳の機能障害、特に前頭葉の働きが弱いことが関係していると考えられています。
前頭葉は脳の前部分にあり、物事を整理整頓したり論理的に考えたりする働きをします。この部位は注意を持続させたり行動などをコントロールしたりします。ADHDの人はこうした注意集中や行動制御の機能に何らかの偏りや異常があり、前頭葉がうまく働いていないのではないかと考えられています。

また、男女によって発現率の違いが見られます。男:女の比率は小児期だと2:1、成人期だと1.6:1とされており、女性は男性よりも主に不注意の特徴を示す傾向があります。

こういった特徴を有する要因として遺伝や環境の影響を指摘する研究もありますが、まだはっきりとしたことは分かっていません。

元々の素因と過去の環境、現在の環境の影響の相互作用によって症状が生じるという考え方もあります。

そのため「育て方が原因」「しつけが悪い」ということではなく、さまざまな要因が影響し合って現在の症状があるということです。

 


ADHDの3つの症状

上記で述べたように、ADHDの症状は「不注意」「多動性」「衝動性」の3つに分けることができます。

1.不注意による症状

・忘れ物が多い
・何かやりかけでもそのままほったらかしにする
・集中しづらい、でも自分がやりたいことや興味のあることに対しては集中しすぎて切り替えができない
・片づけや整理整頓が苦手
・注意が長続きせず、気が散りやすい
・話を聞いていないように見える
・忘れっぽく、物をなくしやすい

 

2.多動性による症状

・落ち着いてじっと座っていられない
・そわそわして体が動いてしまう
・過度なおしゃべり
・公共の場など、静かにすべき場所で静かにできない

3.衝動性による症状

・順番が待てない
・気に障ることがあったら乱暴になってしまうことがある
・会話の流れを気にせず、思いついたらすぐに発言する
・他の人の邪魔をしたり、さえぎって自分がやったりする

ADHDの3つのタイプとそれぞれの特徴

人によってその現れ方の傾向が異なり、上記のADHDの3つの症状のどれが出ているかで大きく3つのタイプに分けることができます。

 

1.多動性-衝動性優勢型

多動性と衝動性の症状が強く出ているタイプです。

・落ち着きがなく、授業中などでも構わず歩き回ったり、体を動かしてしまうなど、落ち着いてじっと座っていることが苦手。
・衝動が抑えられず、ちょっとしたことでも大声を上げたり、乱暴になったりしてしまい、乱暴な子、反抗的だととらえられやすい。
・衝動的に不適切な発言をしたり、自分の話ばかりをする。

※全体的にみるとこのタイプは少ないが、男性(男の子)に現れることが多い

 

2.不注意優勢型

不注意の症状が強く出ているタイプです。

・気が散りやすくて、物事に集中することが苦手。
・やりたいこと、好きなことに対してはとても集中して取り組むが切り替えが苦手。
・忘れ物や物をなくすことが多く、ぼーっとしているように見えて人の話を聞いているのか分からない。

※不注意の特性は女性(女の子)に現れることが多い。

 

3.混合型

多動と衝動、不注意の症状が混ざり合って強く出ているタイプです。

・忘れ物や物をなくすことが多く、じっとしていられず落ち着きがない。
・ルールを守ることが苦手で順番を守らない、大声を出すなど衝動的に行動をすることがある。

 

※多動性-衝動性優勢型と不注意優勢型のどちらの特徴も併せ持っており、どれが強く出るかは人によって異なります。

 

※ADHDはアスペルガーや自閉症を含む自閉症スペクトラム(ASD)や学習障害(LD)などほかの発達障害や、睡眠障害などと合併することもあります。

その場合は上記に挙げた以外の症状が見られる場合もあります。

 


診断は問診やスクリーニングなどから

ASDの診断は、DSM-5というアメリカ精神医学会による「精神疾患の診断・統計マニュアル」に記載されている基準などをもとにした問診によってなされます。

心理検査やスクリーニングテストを併用することもあります。

 

〈DSM-5での診断基準〉

 

1.「不注意(活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど)」と「多動-衝動性(じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど)」が同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に強く認められること。

2. 症状のいくつかが12歳以前より認められること。

3. 2つ以上の状況において(家庭、学校、職場、その他の活動中など)障害となっていること。

4. 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること。

5. その症状が、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中に起こるものではなく、他の精神疾患ではうまく説明されないこと。

 

これらの条件が全て満たされたとき、ADHDと診断されます。

しかし、一部の神経疾患・身体疾患・虐待・不安定な子育て環境などが子どもにADHDそっくりの症状を引き起こす場合があり、小児科・小児神経科・児童精神科医師による医学的評価は非常に重要です。

 


ADHD(注意欠如・多動性障害)の治療

ADHDを持つお子さまは、意識的に症状を予防あるいは軽減しようと試みても困難であり、本人の意図とは別にどうしてもじっとしていられず、学校で必要な持ち物を忘れたり失くしたりしてしまいます。

このような失敗行動は、周囲の人たち(たとえば両親や教師)に厳しく叱責されるため、「どんなにがんばってもうまくいかない自分」という否定的な自己イメージを持ちやすく、家庭や学校においてつらい思いをしていることが見受けられます。

さらにADHDを持つお子さまは、学業不振や対人関係で悩むだけでなく、気分が落ち込んだり、不安感をコントロールできなくなったりなど、こころの症状を合併することもあります。

このため、お子さまが何らかの困った行動を呈しており、その背景にADHDの特性があると診断される場合には、医学的治療が必要です。

ADHDを持つお子さまの治療は「1. 環境への介入」「2. 行動への介入」「3. 薬物療法」などを組み合わせて行うと効果が高いといわれています。

 

1. 環境への介入

お子さまを取り巻く環境を暮らしやすいものにするための介入としては、教室での机の位置や掲示物などを工夫して本人が少しでも集中しやすくなる方法を考える物理的な介入法や、勉強や作業を10~15分など集中できそうな最小単位の時間に区切って行わせる時間的介入法などが有効です。

 

2. 行動への介入

行動への介入では、お子さまの行動のうち、好ましい行動に報酬を与え、減らしたい行動に対しては過剰な叱責をやめて報酬を与えないことで、好ましい行動を増やそうという試みを行います。

問題行動を抑制できたことやその頻度が減ることなどにも注目してしっかりと即座に褒めてあげることが重要です。

報酬を得点化して一定数になったら何らかの特別なご褒美・行事への参加(映画に行く・博物館に行くなど)につなげるようにします。

この行動変容に関して、主としてお子さまに関わる保護者が学ぶトレーニングが「ペアレントトレーニング」として知られています。

また各地で実際に当事者の保護者が活動するペアレントメンターという制度も整ってきています。

 

3. 薬物療法

メチルフェニデート(商品名:コンサータ)という薬剤がADHDの不注意・多動-衝動性を軽減する可能性があるとして保険適用されていますが、これは登録された医師や専門医療機関でのみ処方が可能で、薬局の登録も必要です。その他、アトモキセチン(商品名:ストラテラ)、グアンファシン(商品名:インチュニブ)、リスデキサンフェタミン(商品名:ビバンセ)という薬剤を使用することもあります。

・メチルフェニデート(コンサータ):ドーパミン及びノルアドレナリン再取り込み阻害作用によって、前頭前皮質や線条体を刺激し、脳機能の一部の向上や覚醒効果を主な作用とする中枢神経刺激薬であり、依存リスクがある

・アトモキセチン(ストラテラ):ノルアドレナリン再取り込み阻害作用がある。非中枢神経刺激薬であり、依存リスクも無い。

・グアンファシン(インチュニブ):交感神経の過剰な働きを抑えて、神経の緊張を取り去る働きがある。非中枢神経刺激薬であり、依存リスクも無い。

・リスデキサンフェタミン(ビバンセ):ドーパミンとノルアドレナリンの再取り込み阻害と分泌促進作用がある中枢神経刺激薬であり、依存リスクがある

 


ADHD(注意欠如・多動性障害)のあるお子さまとの接し方

ADHDのあるお子さまは、その特徴から、怒られる機会が多かったり、忘れ物などの失敗を繰り返したりすることで、自分に自信が持てずに、色々な方面で支障をきたしてしまうこともあります。

そのため、ADHDのあるお子さまと接する際は以下の点に注意することが必要です。

 

・できないことよりもできることに着目する

ADHDのお子さまと接する際、できないことの方にどうしても目が行きがちですが、できないところばかり指摘されすぎてしまうと、自信を失ってしまいます。できることの方により着目し、そちらに対して肯定的なフィードバックをすることで、「できた!」という体験が自信となり、次へのやる気につながります。

 

・強みに目を向ける

ADHDのあるお子さまの中には、自分の好きなことに関しては集中力を発揮する方もたくさんいます。お子さまの強みを発見し、サポートすることが、強みを伸ばしたり、自信を育んだりすることにつながっていきます。

 

・失敗しないための声かけを

衝動的に行動をしてしまいがちなお子さまには、事前に「順番に並びましょう」などと声掛けをしたり、気が散りやすい方には気が散らないように机回りを整理したり、準備物を一緒に確認したりするなど、失敗しないためのサポートをおこなうことが大切です。

 

・動ける時間を設けてメリハリをつける

じっとしなければならない場面では、多動性を押さえようとするのではなく、課題の途中に小休止を入れる、身体を動かせる何らかの役割を持ってもらうなどにより、動ける時間と静かにする時間のメリハリをつけることをおすすめします。

 

・一緒に対策を考える

どのような場面で失敗することが多いかを探り、一緒に対策を考えていきましょう。「事前に確認したら忘れ物しなかった」などの成功体験を積みながら、自分の特性との付き合い方を一緒に探していくことが大切です。

 


ADHDの支援(特性に応じた環境調整、行動面や子育ての工夫)

 

【幼児期・学齢期の支援】

ADHDの支援は、医療だけで行われるものでははありません。

家庭や学校では、ADHDのお子さまの特徴をふまえた援助をしていきます。

日常生活の中で、わかりやすく指示を伝える、感情的な叱り方をせず、褒め方を工夫する、気が散りにくいように環境を整える、学習の課題を小分けにして、休憩を挟む、といったような工夫が有効です。

医療における支援では、ADHDのお子さまの特徴を養育者や学校の先生、支援者に伝え、その子にあった環境を整えるなど、その子に応じた支援が円滑に進むような工夫を進めていきます。

より効果的な子どもへの接し方を親が学ぶためのプログラム「ペアレント・トレーニング」も有効です。

これらを通して、ADHDの子どもが、ADHDがあったとしても困難を最小化し、その子らしい伸びやかな育ちが達成できるよう支えていきます。

 

【成人期の支援】

大人の場合には、身辺自立、金銭管理、家事、子育てなどの家庭生活、仕事や余暇の過ごし方、人間関係における困難を抱えていることがあります。

医師は当事者とともにそれらの困りごとについて考えていくことになりますが、当事者の家族や職場に理解を得て、必要な配慮を行うことが必要なこともあります。

精神的な不調を伴っている場合には、まず精神疾患の治療から進めていく場合もありますし、それらの精神的な不調が、その子の直面する困難から来ていると考えられる場合には、ADHDの治療を第一に進めていきます。

 


 

 

 

 

参考:

・LITALICOジュニア「ADHD(注意欠如・多動性障害)とは?」

・NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター 「ADHD(注意欠如・多動症)」

・e-ヘルスネット  「ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療」

・武田製薬工業   大人の発達障害ナビ 「注意欠如・多動症(ADHD)とは」

・Kaien 「大人のADHD(注意欠如多動症)」

 

 

 

 

 

 

 

★次回は、学習障害/局所性学習症(LD/SLD)について書きたいと思います。