学習障害/局所性学習症(LD/SLD)とは?

2023年7月7日

学習障害/局所性学習症(LD/SLD)とは?

 

 

学習障害/局所性学習症LD/SLD:Learning Disorder/Specific Learning Disorder)とは、全般的な知的発達に遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力のうちいずれかまたは複数のものの習得・使用に著しい困難を示す発達障害のことです。

読字障害、書字障害、算数障害の3つに大きく分類されます。

最新の診断基準である DSM-5では、 LD(学習障害)からSLD(局所性学習症)に名称が変更されました
「局所性」という言葉が示すように、全体的には理解力などに遅れはない(この点が知的障害とは異なります)ものの「読み」、「書き」、「算数(計算)」など特定の課題の学習に大きな困難がある状態のことを指します

SLD は、単に「国語の成績が悪い」「数学が苦手」という障害ではありません。
様々な認知能力、例えば「聴覚的/視覚的短期記憶」や、「ものの順番を認識する能力」、「聞いたことや見たものを処理する能力」などの凸凹が、結果として「読み」、「書き」、「算数(計算)」の苦手さとして現われている状態が SLD です。

 


SLDの原因

SLDの原因はいまだにはっきりとは解明されていませんが、先天性の遺伝要因に様々な環境要因が相互に影響し、脳の中枢神経系に何らかの機能障害が生じるのではないかと考えられています。

親のしつけや養育方法、本人の努力不足が原因ではないことが医学的に分かっています。

SLDの有病率は、学齢期の子どもにおいて5~15%程度と言われています。

成人における有病率は約4%とされています。

各クラスに2~3人程度は何らかのSLDを持っている子がいるくらいの割合です。

また、SLDを持っている子どもは、ADHD(注意欠如多動症)も併発していることが多いです。

その他にも、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)などの発達障害、不安障害や抑うつ障害などの精神疾患が併存していることがあります。

これらの病気が学習を困難なものにしていることが説明できるような場合は、SLDの診断が下されないこともあります。

 


SLDの3つの分類と特徴

1.読字障害(ディスレクシア)

・ひらがなの音読が遅く、読み間違える。

・読んでいる文字や文章の意味を理解することが難しい。

・文章を読むのがたどたどしく、文章の内容(あらすじ)をつかんだりまとめたりすることが難しい。

※文字を正確に読めない、読めたとしてもたどたどしかったり、片言のようになってしまうような症状です。また、読解力が著しく低いことがあります。

 

2.書字障害(ディスグラフィア)

・バランスのとれた文字を書くことが難しい。

・文章を書く時に助詞などをうまく使いこなせない。

・板書など書き写しの速度が極端に遅い。

・考えた内容を書いて表現することが難しい。

・「てにをは」が使いこなせない。

・文字が鏡文字になってしまう。

・文字の大きさを揃えて書いたり、作文用紙のマス目に文字を収めることができない。

 

3.算数障害(ディスカリキュリア)

・簡単な計算ができない 。

・時計が読めない。

・九九が覚えられない。

・図形が理解できない。

・自分で計算式を立てられない。

・数の概念が身につかず、数系列の規則性などの習得が難しい。

・文章題を解くのが難しい。

 

 

※SLDの特性として、運動機能自体の問題はありませんが、頭で理解して体を動かすことが苦手な場合があり、運動のほか図画工作や書道なども苦手といった特徴があります

・全身を協調させて運動することや団体競技が苦手。

・基本的な動作がゆっくりな特性がある。

・指先が不器用なため、図画工作、書道など実技系の授業が苦手。

 


診断は問診やスクリーニングなどから

 

DSM-5では、SLDの診断基準について以下のように定義しています。

 

〈DSM-5の診断基準〉

 

A.学習や学業的技能の使用に困難があり、その困難を対象とした介入が提供されているにも関わらず、以下の症状の少なくとも1つが存在し、少なくとも6ヶ月間持続していることで明らかになる。

1.不適格または速度が遅く、努力を要する読字(例:単語を間違ってまたはゆっくりとためらいがちに音読する、しばしば言葉をあてずっぽうに言う、言葉を発音することの困難さを持つ)

2.読んでいるものの意味を理解することの困難さ(例:文章を正確に読む場合があるが、読んでいるものの繋がり、関係、意味するもの、またはより深い意味を理解していないかもしれない)

3.綴字の困難さ(例:母音や子音を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりするかもしれない)

4.書字表出の困難さ(例:文章の中で複数の文法または句読点の間違いをする、段落のまとめ方が下手、思考の書字表出に明確さがない)

5.数字の概念、数値、または計算を習得することの困難さ(例:数字、その大小、及び関係の理解に乏しい、1桁の足し算を行うのに同級生がやるように数学的事実を思い浮かべるのではなく指を折って数える、算術計算の途中で迷ってしまい方法を変更するかもしれない)

6.数学的推論の困難さ(例:定量的問題を溶くために、数学的概念、数学的事実、または数学的方法を適用することが非常に困難である)

B.欠陥のある学業的技能は、その人の暦年齢に期待されるよりも著名にかつ定量的に低く、学業または職業遂行能力、または、日常生活活動に意味のある障害を引き起こしており、個別施行の標準化された到達尺度および総合的な臨床評価で確認されている。

 

C.学習困難は学齢期に始まるが、欠陥のある学業的技能に対する要求が、その人の限られた能力を超えるまでは完全には明らかにはならないかもしれない。

 

D.学習困難は知的能力障害群、非矯正視力または聴力、他の精神または神経疾患、心理社会的逆境、学業的指導に用いる言語の習熟度不足、または不適切な教育的指導によってはうまく説明されない。

 


年齢別の症状

SLDは、学習を始めてから症状が現れる障害のため、小学生に入るまでは分からないことが多いです。

子どもの成長速度には個人差があるため、何となくSLDの兆候が見られると心配されることもありますが、ゆっくりと成長しているだけというケースもあります。

 

幼児期(1~5歳)

本格的な学習を始めていないため、SLDを疑うような症状は見られないことが多いですが、その中でも以下のような傾向が見られる場合はSLDの可能性があります。

・言葉や文字を覚えるのが周囲より遅い

・見本を見ながらでも折り紙や積み木がうまく扱えない

・身体の使い方が不自然 など

 

小学生(6~12歳)

小学生になると本格的に学習が始まるため、SLDの特徴が頻繁に見られるようになります。同級生と比べて明らかに読み書きや計算が苦手な場合は一度専門機関へ相談することをおすすめします。

また、小学生では、SLDだということを教えられてもまだ理解できないため、読み書きができないことをからかわれてしまうこともあります。

精神的なストレスにつながり、場合によっては不登校や引きこもりにつながるため、普段の様子を注意深く観察するようにして下さい。

読字障害
  • ひらがなや漢字を繰り返し練習しても読めない
  • 指で追わないと文字が読みにくい
  • 音読を嫌がる など
書字障害
  • 板書ができない
  • マス目に合わせて文字が書けない
  • 鏡文字になってしまう
  • 文字を書くのを嫌がる など
算数障害
  • 数字を覚えられない
  • 時計をなかなか読めるようにならない
  • 繰り上がり、繰り下がりの理解ができない筆算で桁を合わせることができない など

 

中学生・高校生(13~18歳)

中高生になると、苦手なことがはっきりと見えるようになります。

成績はとても優秀だけど、文字を書くのだけは苦手でよく注意される、聞いたことを理解するのは得意なのにテキストで渡されると途端に処理ができないなど、何か特定のことだけが極端に苦手ということがあります。

また、小学生までは問題なく学習できていたのに、英語を学び始めたタイミングで読み書きが困難なことに気づくということもあります。

中高生になるとSLDを隠しながらうまくやり過ごすことができたりしますが、人知れず困難を抱えて生活していたり、受験の際に大きなハンディキャップになることがあります。

読字障害
  • 小学校で習った漢字が読めない
  • 英単語が覚えられない
  • 長文読解が極端に苦手 など
書字障害
  • 作文や小論文が書けない
  • bとdを反対に書いてしまう など
算数障害
  • 計算問題はできるが、文章題になると式を立てられない
  • 図形問題が極端に苦手 など

 

成人・社会人(18歳~)

大人になってからSLDだと診断される人も少なくありません。

何となく学生時代から苦手なことはあってもうまくやり過ごしてきたことが、社会人になって能動的に動いて価値を提供する側になった途端に大きな困難に直面することがあります。

また、大人になってSLDの診断を受ける場合は他にも何らかの発達障害や精神疾患を抱えているケースが多いため、合わせて正確に診断を受けることをおすすめします。

読字障害
  • マニュアルが読めない
  • 台本の読み合わせができない
  • よく文章を飛ばして読んでしまう
書字障害
  • ひらがなで書けない文字がある
  • カタカナがわからなくなる
  • 電話のメモを取ることができない
  • 英語の読み書きが苦手
算数障害
  • 時計を読むのに時間がかかる
  • 九九ができない
  • 自分で式を立てられない

 


SLDの治療

今のところ手術や薬物など医学的な方法による根本的な治療法はありませんが、教育面・生活面での環境調整や療育などを行うことで困難さを軽減できることもあります。

SLDのお子さまは、脳機能の偏りのため特有の見え方・感じ方があり、本人の努力だけでは乗り越えづらい困難があります。

そのため特に学習場面において、適切なサポートを受けることが必要です。

また、SLDのお子さまは全てのお子さまが同じ症状に悩まされているわけではなく、それぞれ得意なことと不得意なことを持ち合わせています。

一人一人の子どもの特性に合わせ、困難を取り除いて最適な方法を見つけていくことが大切です。

 


SLDのある お子さまとの接し方

SLDがある場合、重要なのは「頑張ってもできない」ことを周囲の人が理解してあげることです。

できないことをからかったり、叱ったりすることは、SLDだけでなくうつ病や不安障害を引き起こすことがあります。

工夫をして乗り越えられる障害であることを教えつつ、学習自体に苦手意識を持ってしまわないようにサポートしてあげることが大切です。

 

文字や文章を読むことが苦手】

ひらがな1文字の読みの定着から開始して、徐々に、単語や語句のまとまり、文章を読めるようにしていくことが大切です。

そのためには、単語や語句の読み方を聞かせ、その意味を教えること、また、例文などをつくることで、語彙の力を高めていくことが大切です。

代替手段としては、周囲の大人が音読することや、コンピューターの読み上げ機能を活用することも有効かもしれません。

 

書くことが苦手】

書くことが苦手なお子さまは読むことも苦手なことが多いので、まずは流暢に読めるようになることが必要です。

流暢に読めるようになると、ひらがなを書くことが上手になることが多いです。

書くこと自体はなぞり書きから練習し、習得度に合わせながら模写や聴写を行っていきましょう。やすりを紙の下に敷いて書いたり、目を閉じながら書くことで、身体に字を書くのを覚えさせることができる場合があります。

漢字を書くことが難しいときは、書き順や漢字のへんやつくりに着目を促す方法や、語呂合わせのような句を作って唱えながら書く方法もあり、お子さまに合わせた方法を選択することが重要です。

代替手段としては、コンピューターやタブレットを用いた文章作成を活用することも有効かもしれません。

 

計算することが苦手】

たくさんの問題を解くよりも、少ない問題をゆっくりと丁寧に解くようにしましょう。

まずは、10の合成・分解を理解できるようになることが大切です。

分からない問題は答えを教えるだけでなく、道筋までフォローするようにしましょう。

 


 

 

 

 

 

参考:

・LITALICOジュニア 「学習障害(LD)とは」

・LITALICOジュニア「学習障害の子どもとは?」

・ブレインクリニック「学習障害(LD)とは?」

・Kaien「大人のLD(学習障害)」

・大人の発達障害ナビ「学習障害/局所性学習症(LD/SLD)とは」

 

 

 

 

 

★次回は、発達性協調運動障害(DCD)について書きたいと思います。