発達性協調運動障害(DCD)とは?

2023年7月11日

発達性協調運動障害/発達性協調運動症(DCD)とは?

 

 

発達性協調運動障害または発達性協調運動症DCD:Developmental Coordination Disorder)とは、知的発達には遅れはなく、筋肉や神経、視覚・聴覚などに明らかな異常も認められないが、日常生活における協調運動が、本人の年齢や知能に応じて期待されるものよりも不正確であったり、ぎこちない、困難であるという状態で、いわゆる不器用といわれる状態です。

 

協調運動とは、手と手、手と目、足と手などの個別の動きを一緒に行う運動です。
例えば、キャッチボールをする時に、ボールを目で追いながら、ボールをキャッチするという動作を同時に行ったり、縄跳びをする時に、ジャンプする動作と、縄を回す動作を同時にするというような運動を協調運動と言います。

協調運動とは、見る、触った感じ、体の姿勢、手足の動きなどの感覚をまとめ上げて、滑らかな運動を行うための脳機能の一つであり、このようなまとまりのある滑らかな体の動きは、日常生活動作、(食事、着替えなど)、手作業、運動バランスや姿勢保持、学習の効率などを保つために重要です。

 


DCDの原因

DCDのはっきりとした原因は、まだわかっていませんが、いくつかの原因が検討されています。

まず妊娠中、母親のアルコールを摂取、またはそれによる早産、低体重で生まれた場合、DCDを発症する確率が高いという研究があります。

次に、注意欠如多動症(ADHD)、局所性学習症(SLD)、自閉スペクトラム症(ASD)との併発が非常に多い(注意欠如多動症(ADHD)の約30~50%、限局性学習症(SLD)の約50%)ため、なんらかの共通する遺伝的要因があるのではないかと言われています。

また、上記のような障害のある子どもは定型発達のお子さまより、DCDを発症する可能性が高いと言われています。

発症頻度は6~10%と高く、小学校の30人学級ならクラスに2~3人はいる計算になります(5歳~11歳の子どもの発症率は5~6%)。

また、女児より男児のほうが発症率が高いことが分かっています。

 


診断は問診やスクリーニングから

本人の運動能力が期待されるよりどのくらい離れているかは、通常「MABC-2」(Movement Assessment Battery for Children,2nd version)や、「JPAN」(日本版感覚統合検査)と呼ばれる感覚処理行為機能テストなどのアセスメントテストによって評価されます。

これらのテスト結果やを参考に、医師がDCDかどうかを判断します。

 

〈DSM-5の診断基準〉

1.協調運動技能の獲得や遂行が、その人の生活年齢や技能の学習および使用の機会に応じて期待されているものよりも明らかに劣っている。その困難さは、不器用(例:物を落とす、または物にぶつかる)、運動技能(例:物を掴む、はさみや刃物を使う、書字、自転車に乗る、スポーツに参加する)の遂行における遅さと不正確さによって明らかになる。

2.診断基準Aにおける運動技能の欠如は、生活年齢にふさわしい日常生活動作(例:自己管理、自己保全)を著明および持続的に妨げており、学業または学校での生産性、就労前および就労後の活動、余暇、および遊びに影響を与えている。

3.この症状の始まりは発達段階早期である。

4.この運動技能の欠如は、知的能力障害(知的発達症)や視力障害によってはうまく説明されず、運動に影響を与える神経疾患(例:脳性麻痺、筋ジストロフィー、変性疾患)によるものではない。

 


運動の種類

人間の運動には大きく分けて、粗大運動と微細運動があります。
人間は、さまざまな感覚器官から得られた情報をもとに、初めは姿勢を保つことや寝返りといった粗大運動を習得し、次第に段階を踏みながらより細かい微細運動ができるようになります。
【粗大運動】

粗大運動とは、感覚器官からの情報をもとに行う、姿勢と移動に関する運動です。

粗大運動には、先天的に人間に備わっている運動と、後天的に学ぶ運動があります。

寝返り、這う、歩く、走るといった基本的な運動は人間が先天的に持っている粗大運動能力です。
一方、泳ぐ、自転車に乗るなどの運動は、環境的な影響や学習によって身につけると言われています。

 

【微細運動(巧緻運動)】

微細運動とは、感覚器官や粗大運動で得られた情報をもとに、小さい筋肉(特に指先など)の調整が必要な運動(物をつまんだり、ひっぱったり、指先を使って細かな作業(字や絵を書く、ボタンを留める、ハサミを使う など))です。

成長とともに、粗大運動から、より細かい微細運動ができるようになります。
DCDのあるお子さまは、粗大運動や微細運動、またはその両方における協調運動が同年代に比べぎこちなく、遅かったり、不正確になります。

子どもによって、乳幼児期の粗大運動には全く遅れや苦手はなかったが、幼稚園や、小学校に行くようになり微細運動を必要とする場面が増え、微細運動が顕著に困難である場合もあります。

 


年齢別の困りごと

乳児期(1歳未満)

乳児期は、基本的な粗大運動を学び、獲得していく段階です。

また子ども一人ひとりの運動機能獲得のスピードは違いますし、できること、できないことも個人差が大きい時期ですので、苦手なことがあっても心配する必要がない場合も多いと言えますが、DCDと診断されるお子さまには、乳児期に以下の様な特徴が共通して見られる傾向があります。

母乳やミルクの飲みが悪い(むせる)

・寝返りが上手にできない

・はいはいがうまくできない

・離乳食を食べるとむせる

 

幼児期(1歳~6歳未満)

幼児期は、特に5歳を過ぎると、運動能力の個人差が縮まってきます。
そのためこの時期にDCDと診断される場合が比較的多いと言えます。

DCDのある幼児は、 以下の様な特徴が見られる傾向があります。

・お座りやはいはいが上手にできない

・歩行が上手にできない

・ファスナーを上げたり、ボタンをはめたりするのが上手にできない

・転んだ時に手が出ない

・平坦な場所でよく躓いたり転んだりする

・トイレで上手にお尻をふけない

 

小学生(6歳~13歳)

小学校に上がると日常生活、学習生活でより複雑で繊細な動作を求められる場面が増えます。
そのため微細運動での協調運動障害が顕著に表れます。

DCDのあるお子さまは、以下のように不正確であったり、習得が遅れていたり、困難なことが見られる場合があります。

模型を組み立てたりするのが苦手

・ボール遊び(キャッチボールなど)が苦手

・文字の大きさを揃えたり、マスの中に入れて書くことが難しい

・よく物を落とす

・階段の昇り降りがぎこちない

・紐を上手に結べない

・お箸を上手に使えない

・自転車に乗れない

・縄跳びができない

・リコーダーが吹けない

・姿勢が崩れやすい

・文房具を使った作業が苦手(消しゴムで消すと紙が破れる、定規をおさえられずに線がずれる など)

 


DCDの治療

それぞれの子どもの発達段階をベースに、運動課題や生活上の困り感に合わせて、療育プログラムを行います。作業療法感覚統合療法理学療法などを組み合わせます。

感覚統合の問題は発音(構音)、食べ物をかんで飲み込むことにも関係しますので、言語療法が必要な場合もあります。
感覚面、姿勢や運動バランスの評価を受けて、どこに運動の苦手さの原因があるか評価した上で、訓練はまず、運動や作業課題が楽しいと思えるようになることから始めます
そして、徐々に苦手なことや新しい事にも少しずつチャレンジし達成感をえること、治療担当者と良いコミュニケーション関係を築いて行くことが総合的な発達支援と広がっていきます。

①作業療法(OT)

OTでは、楽しい作業(遊び)の中で手先を動かす訓練をしたり、コミュニケーションを通して社会に適合する力を身につけたりする訓練をします。

行われる作業の内容は、日常生活で必要とされる作業がほとんどで、絵を描いたり、ハサミやのりを使って工作したりといった微細運動を主に用います。

微細運動を苦手としているお子さま多く、少しずつ個々のペースに合わせて訓練を続けていくことが大切になります。

継続して作業を行うことで克服できるまでのスピードが速まり、自信につながります。

 

②感覚統合療法

OTが行う治療の一つに、感覚統合療法があります。

発達障害をお持ちのお子さまは、匂いや音、光などの刺激に敏感(または鈍感)であるという特徴もあり、これらの刺激によって、落ち着きがなくなることもあります。

これらは、味覚や嗅覚、視覚、聴覚などの感覚器官がうまくコントロールできないことが原因と考えられており、この感覚を統合させるために行われる治療として、「感覚統合療法」を取り入れる場合もあります。

 

③理学療法(PT)

身体を動かす大きな運動が苦手なお子さまに対して取り入れられる治療方法で、物理的な手段として、マッサージや電気刺激、温熱などが挙げられます。

また、運動機能の中で苦手な運動をサポートすることもPTの一つで、歩く・走る、ジャンプ、スキップなどの粗大運動を改善させていきます。

 

④言語療法(ST)

DCDの症状の中で、「話す」という機能がうまく行えないというケースもあります。

滑舌が悪く、スムーズに言葉が発せない場合は、STを受けることが有効です。

また、口元の筋肉もトレーニングしていきます。

言語機能が正常化することで、言葉を発するだけではなく、飲み込みなどの食事面でも大きな改善が期待できるます。

 


DCDのお子さまへの接し方

DCDがあるお子さまへの関わり方として、「怠けている」「やる気がない」「努力が足りない」「親が甘やかしている」ということは決して言わないことが大切です。

本人は決して、怠けているわけでも努力を怠っているわけでもありません。

まずは疾患への理解を深め、本人がどのような動作に困りごとを感じているのか、しっかりと明確にすることが必要です。

協調の問題というのは、子どもの認知機能や学習能力、情緒的な問題、行動的な問題に関わります。

心無い言葉は、自尊心や自己肯定感にも影響を与え、その後の人生においても影響を与えてしまうことがあります。

お子さまの可能性を信じて、今持っている最大限の力を発揮し、苦手な動作・作業を少しずつ克服していくことを目指して、本人や周りの人々が障害と向き合っていくことを大切にしていきましょう。

 


 

 

 

 

参考:

・大阪メンタルクリニック  梅田院 『協調運動障害とは?』

・NHK福祉情報サイト  ハートネット 『発達性協調運動障害(DCD)とは』

・LITALICO 発達ナビ  『発達性協調運動障害とは?』

・とちぎっこ発達クリニック  『発達性協調運動障害』

 

 

 

 

 

★次回は、今回の記事にも出てきた感覚統合療法について詳しく書きたいと思います。