「健診で発達の遅れを指摘されたけれど、これってどういうこと?」
「自閉症やADHDなど、色々な言葉があってよく分からない…」
お子さんの発達について調べ始めると、たくさんの専門用語が出てきて混乱してしまう親御さんは少なくありません。「障害」という言葉の響きから、ショックを受けたり、自分を責めてしまったりすることもあるかもしれません。
今回は、発達の基礎知識として「発達障害とはそもそも何なのか」、そして代表的な3つの種類(ASD、ADHD、LD)の特徴について、専門的な視点と毎日の生活での具体的な姿を交えながら、分かりやすく丁寧に解説します。
そもそも「発達障害」って何?
発達障害は、医学的な最新の分類(DSM-5という世界的な基準)では**「神経発達症(しんけいはったつしょう)」**と呼ばれています。
これは親の育て方や愛情不足、本人のわがままが原因で起こるものではありません。生まれつきの**「脳の働き方(神経の配線)の違い」**によって、得意なことと苦手なことの差(凸凹)が極端に大きくなっている状態のことを指します。
多数派の人たちが自然と「暗黙の了解」でできていることが、脳の配線の違いによってキャッチしにくいため、社会生活や日常生活の中で「生きづらさ(困りごと)」を抱えやすくなります。
代表的な3つの種類と、具体的な特徴
発達障害には大きく分けて3つのタイプがあります。ただし、これらはくっきりと分かれているわけではなく、複数の特性を併せ持っているお子さんも多くいます。
1. ASD(自閉スペクトラム症)
以前は「自閉症」や「アスペルガー症候群」などと呼ばれていたものが、現在は「ASD(Autism Spectrum Disorder)」という一つの名前に統合されました。
【専門的な定義】
- 社会的コミュニケーションおよび対人相互反応の障害: 相手の気持ちを想像したり、その場の空気を読んだり、言葉の裏の意図を汲み取ったりすることが苦手です。
- 行動や興味の限局・反復(こだわり): 特定の物事に強い興味を持ったり、いつもと同じ手順(ルーティン)を強く好んだりします。急な予定変更に強いストレスを感じます。
- 感覚の過敏・鈍麻(どんま): 視覚、聴覚、触覚などの五感の感じ方が、極端に強かったり(過敏)、逆に弱かったり(鈍麻)します。
【生活の中での具体的な姿】
- 「あれ取って」などの曖昧な指示が伝わりにくい(文字や絵など、視覚的な情報の方が理解しやすい)。
- ミニカーを一直線に並べ続けるなど、同じ遊びを繰り返す。
- 服のタグや特定の素材を嫌がる、ドライヤーや掃除機の音でパニックになる(感覚過敏によるもの)。
2. ADHD(注意欠如・多動症)
【専門的な定義】
- 不注意: 集中力が長続きしない、忘れ物や紛失物が多い、気が散りやすい状態です。
- 多動性: じっとしていることが苦痛で、常に身体を動かしてしまいます。
- 衝動性: 思いついたことを、結果を予測する前に行動に移してしまいます。順番を待つのが苦手です。
【生活の中での具体的な姿】
- 食事中もすぐに立ち歩いてしまう(頭の中に「エンジンがかかりっぱなし」の状態)。
- お友達のおもちゃを、悪気はないのにパッと横取りしてしまう(衝動性)。
- 興味があること(好きなゲームなど)には驚くほどの集中力を発揮する(過集中)。
3. LD / SLD(限局性学習症)
【専門的な定義】
全体的な知的発達(IQなど)に遅れはないものの、「読む」「書く」「計算する」といった特定の学習能力の習得だけが極端に困難な状態です。
【生活の中での具体的な姿】
- 読字障害(ディスレクシア): 文字が歪んで見えたり、行を飛ばして読んだりしてしまう。「わ」と「ね」などの似た文字の区別がつかない。
- 書字表出障害(ディスグラフィア): 鏡文字(左右反転した文字)ばかり書く、枠の中に文字を収めて書くことが極端に苦手。
- 算数障害(ディスカリキュリア): 「1、2、3」という数字の記号と、実際の「量」が頭の中で結びつかない。
支援の基本となる「氷山モデル」という考え方
発達障害を理解する上で、専門家が最も大切にしているのが**「氷山モデル」**という見方です。
お子さんが「パニックを起こして泣き叫ぶ」「お友達を叩いてしまう」「何度言っても片付けない」といった行動をとったとき、私たちはつい水面から出ている**「氷山の一角(目に見える困った行動)」**だけを見て、そこを怒ったり、直そうとしたりしてしまいます。
しかし、本当に目を向けるべきなのは、**水面下に隠れている「目に見えない理由」**です。
- パニックの裏側: 「次に何が起こるか分からなくて不安だった」「部屋の蛍光灯が眩しすぎて痛かった(感覚過敏)」
- 話を聞かない裏側: 「耳からの情報がすぐに消えてしまい、覚えられなかった(ワーキングメモリの弱さ)」
この「水面下の理由」を専門的な視点(発達検査や行動観察など)で紐解き、お子さんが理解しやすいように環境を整えること。これが、療育(リハビリテーション)におけるサポートの基本方針となります。
「スペクトラム(連続体)」という捉え方
ASDの「S」は「スペクトラム」の略で、「連続体(グラデーション)」を意味します。
発達の特性は、「ここからが障害で、ここからが健常」と白黒ハッキリ分けられるものではありません。虹の色が少しずつ混ざり合って変化するように、誰もが多かれ少なかれ持っている特性が、生活に支障が出るほど色濃く出ている状態を指します。
そのため、「診断がつく・つかない(グレーゾーン)」に関わらず、**「今、この子が生活の中で何に困っているか」**に焦点を当てて、具体的なサポートをスタートさせることが最も重要です。
まとめ
発達障害(神経発達症)は、「治すべき病気」ではなく、「その子の持つ脳の特性(個性)」です。
左利きの人に右用のハサミを渡して「うまく切れないね」と怒るのではなく、左利き用のハサミ(お子さんに合った環境や伝え方)を渡してあげることで、子どもたちは本来持っている素晴らしい才能や笑顔をたくさん見せてくれるようになります。
お子さんの行動で「どうして?」と悩んだときは、どうか一人で抱え込まず、地域の療育施設や専門機関にご相談ください。お子さん専用の「使いやすいハサミ(支援の方法)」を、一緒に見つけていくお手伝いをしてくれますよ。


